演劇を使った教育って…?

2018年11月22日

演劇を使ったコミュニケーション教育

 演劇をコミュニケーション能力の育成に使う試みは、海外では広く行われており、日本でも近年「表現教育」や「アクティブ・ラーニング」という言葉で取り入れられるようになり、子供たちだけでなく、企業の研修でも行われるようになりました。

 演劇の目的は、伝えることです。ただ書かれた言葉を音読するだけではなく、自分は今、何を考え、感じていて、なぜこのセリフを言うのかを読み解き、考えなくてはなりません。また相手役に対しても、このセリフを言うことで何を感じて欲しいのか、どうしたら次の相手のセリフを引き出せるのか、理解しなくてはなりません。そして何よりも、それを相手役にも、観客にも「伝えなくては成立しない」のです。

 これは私たちが普段、何気なくやっているコミュニケーションを俯瞰して観察する作業に他なりません。これが「演劇」というものがコミュニケーション教育に有効であるという理由です。私たちは演劇活動を通じて、日々そのトレーニングをしているのです。

多様性の理解と、自己肯定感

 演劇というものの持つ強みに「様々な個性があった方がおもしろい」という点があります。舞台に登場する全員がお姫さまでは物語になりませんが、お姫さまを憎む魔女や守ろうとする従者がいれば、そこに対立とドラマが生まれます。演劇というものは「全く違った人間が一つのものを作る」ことを前提としていると言っていいでしょう。

 私たちはこれまで、20年近くにわたって子供たちにお芝居を教える中で、本当に様々な個性や障害を持った子供たちと作品を作ってきました。子供たちは「個性が違う」からこそ、この物語がおもしろくなっていることを、すんなりと理解します。それは「多様性への理解」に他ならず、そしてそれを経た子供たちは、どんな自分であっても良い、という「自己肯定感」を得ていきます。

 もうひとつ、その一助となっているのが、物語の世界が「ウソ」であると言うことです。人前で発表することは苦手なのに、お芝居では生き生きする子はよくいます。ありのままの自分で話すことは、恥ずかしくてためらわれても、「ウソ」の世界の中では自由に行動する言い訳ができるからです。「ウソ」の中では、普段の自分では出来ないこともできるし、本当はやりたくてたまらなかったことをすることができます。それは大人の私たちから見れば架空の世界での体験ですが、子供たちにとっては本物です。その「現実では得難い経験」を体験できてしまうことに、演劇の強みがあります。

 そして物語の世界の中で得た経験は、必ず現実の子供たちに影響を与えます。演じるという経験は、子供たちに本当に大きな成長をもたらすのです。

2020年の教育改革に向けて

 日本の子供たちの教育水準は、世界の中でも非常に高いレベルにある一方、主体的な学習を苦手とし、思考力、表現力、活用力に伸び悩んでいると言われています。2017年に発表された、次期「学習指導要項」ではその点の強化を謳い、コミュニケーション能力を生きていくための必要な力として再定義しています。そして2020年からは、大学入試も大きく変わり、教育現場ではよりいっそう表現力や創造力が求められることとなりました。しかしながら、それを指導できる教員は決して多くありません。

 私たちは、その助けになりたいと考えています。決して単なる受験対策ではありません。変化の目まぐるしい現代社会において、子供たちが力強く生きていくために、自ら考え、判断し、適切にコミュニケーションする力が必ず必要となるからです。

子供たちの“生きる力”のために

 そして立ち上げたこの教室は、9PROOMと名付けました。私たちの運営母体である劇団、9PROJECT(ナインプロジェクト)の愛称9PRO(きゅうぷろ)と、みなさんにとって居心地のいい部屋(ROOM)のようでありたいという願いから、9PRO+ROOM=9PROOM。私たちはこの“部屋”で、この演劇という表現活動を、とても身近なものとして子供たちに提供していきたいと考えています。

 子供たちを観察していると、彼らが自然と行う“遊び”の中には、たくさんのコミュニケーションや表現が存在していることに気がつきます。ですから私たちは、小難しいことを「勉強する」のではなく、その「遊び」の延長線上として、日常生活の中に自然と溶け込んでいける「学び」でありたいと思っています。

 とにかく楽しく、ワイワイと! 素晴らしい体験になる時間をお届けします。